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「ヤシロ、〈神〉って一体なにかしら」
いつも凛然としている姉さまにしては、覇気のない声だった。
何もかもがおかしく感じて、ボクは首をかしげた。
「姉さまが、もうすぐなるものでしょ」
それはボクらが、〈神〉と、〈侍童〉でなくなる瞬間にだけ、許される言葉づかいだった。
姉さまは、ふっと物哀しげに笑うと、「そうね。その時になれば、嫌でも分かるわね」と、こたえた。
がらんどうの石造りの神殿に、月明かりが滑りこみ、石床の端に積もる雪が、ぼうっと反射した。
明くる日からは、姉さまには、儀式に向けて常に神官が付き添う。
ボクも、姉さまの侍童として傍らにはいるけど、それでも、ただの双子の姉、弟として二人きりになれるのは、この夜が最後だった。以降、儀式までは、姉さまの周りから人が絶えることはない。
――だって、姉さまは、本物の〈神〉になるのだから。
姉さまは、産声をあげたその時から、〈神〉になることが決まっていた尊い人だった。だから、姉さまは民に神として振舞った。誰とも言葉を交わさず、誰とも目を合わせず、我らカナガナ〈星の民〉を平等に見守る象徴、万人のための存在となった。
それは、「同じ腹から出た身だから」という理由で、姉さまの侍童に選ばれたボクだって、例外ではなかった。
ふたりっきりの時、こうやって双子のようにしていても、姉さまが〈神〉として民の前に立てば、ボクは民といっしょ。姉さまが、自害しろ、といえばその場で腹を切らなければいけない者になる。
ボクらは、双子だ。
けれど、他人の前では、同じ血を持たなくなる、とても奇怪な関係だった。
でも、だからなんだというのだろう。
「人には、生まれたときから、決められた役割というものがあるのだ」
ボクは村長の口癖を口ずさむことで、いつも、複雑に絡もうとする考えをすぐに手放した。
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