第1章

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在校生と保護者が既に居並ぶ体育館。中央に作られた道を取ってあたしたちはクラス毎に席についた。 司会の教頭先生が開会の辞を述べて、卒業式が始まった。 壇上に向かって座ってるあたしたち生徒に垂直に、けいちゃん達先生は、体育館の壁を背に座ってる。けいちゃんの今日のスーツ、始業式の時と同じやつだ。 校長先生の話のあとで、卒業証書授与が行われる。うちの高校はひとりひとり壇上に取りに行くスタイルだ。1組から順番に渡されて行って、4組の番になった。 けいちゃんは壇の下で、あたし達の名前をひとりひとり呼んでいく。バックの切なげな旋律のピアノ・ソロに緊張気味のけいちゃんの掠れた声が被さる。 「――春日千帆」 あたしはけいちゃんの声を合図に、登壇して校長先生の前に立つ。一昨日、うちに来たばかりの校長先生は、あたしに微笑みかけた。 「君の選んだ道は、他の生徒より険しいと思うけど…頑張って」 儀礼的でなく、心のあたたまるメッセージ。あたしは思わず「はいっ」って力いっぱい返事をしてしまって、会場中の笑いを誘った。 うう、最後の最後で、恥かいた。 壇を降りたところで、一瞬だけけいちゃんと目が合った。けいちゃんの眦が下がって、目だけで優しいく微笑まれる。 こんなとこで、そんな目で見ないでよ~。悩殺されて、キュン死するから。 席に戻ると、大事な卒業証書が、手に汗かいたお陰で、持ってたとこだけふやけてた。…けいちゃんのせいだ。
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