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最後の号令が掛かって、みんなバラバラに散っていく。
「ちぃは?」
まだ席を立たないあたしに、七海が聞いてくる。
「あたし、まだここにいる」
もう少しだけ、高校生活の余韻を味わいたくて、まだこの教室から離れがたくて、あたしはそう言った。
「わかった。じゃ、私は先に帰るね」
荷物を全部準備してから、七海は思い出したようにあたしのところに来た。
「遠藤ちゃんとどうなったか…今度じっくり聞かせてね」
「う、うん」
七海が出て行くと、教室の中にはもう誰もいなくなっちゃった。さっきまでの喧騒が嘘みたい。
あたしはけいちゃんが立ってた黒板の前に立ってみた。けいちゃんの書いた文字がまだ残ってる。
背の高いけいちゃんは黒板をいちばん上から使う。腕を真上に伸ばして、そっとその文字に触れた。
「やっぱりいた」
ふいに声を掛けられて、あたしは驚いて指先で黒板を拭ってしまう。けいちゃんの書いた文字が半分掠れた。
「け、けいちゃ…」
「まだ『遠藤先生』だよ、春日」
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