第1章

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けいちゃんはにやっと笑ってから、黒板消しで残ってた文字を綺麗に消し始めた。 「先生、どうしたの?」 「…忘れ物」 「何?」 「これ、落ちてたよ、春日」 けいちゃんはあたしの手に、真新しい鍵を握らせた。落ちてた?って??? だってこれ、見覚えないし、あたしのじゃない…。 アタマの中、ハテナだらけのあたしに、けいちゃんは「鈍いね」って笑った。 もしかしてもしかしなくてもこれ…。 「新しく付け替えたんだ。中のリフォームもだいたい終わってる。家具とかカーテンとかは、千帆と決めたかったから、まだ中は何もないけど。俺、今日遅くなるから、春日、お母さんとでも見ておいで」 やっぱり。あたしたちの新居の鍵だ。 「これからもよろしくな、春日」 この鍵はけいちゃんとあたしの新しい未来を開く鍵。 先生だけど、あたしの彼。あたしの彼氏だけど、先生。大事な愛しい人。 これからのあたし達はどんな風になっていくんだろ。けいちゃんはあたしの、旦那様? パートナー? でも、どんな風に変わっていっても、一緒にいたい。この気持だけは失くしたくない。 「う、うん」 けいちゃんの言葉に頷いて、あたしは宝物みたいに鍵をぎゅうっと握りしめた。                                   (完)
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