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果たして岬さんは大学の敷地にいた。
お洒落な木製のベンチに座り、足をぶらぶらさせながらスマホをいじっていた。大変、可愛い。
当然、僕から話かける勇気もなく、5メートルほど離れて見惚れていたら、岬さんは「んもう」と可愛らしく呟き、顔を上げた。僕と目が合う。
「あ、田村クンだ」
感動である。僕みたいな人間の名前を憶えていてくれるなんて、もう小針さんになら殺されても構わない。
やっほー、こっちおいでよ。と言って手を振ってくれたので、僕も慌てて挨拶を返して、それから走り寄った。
「なにしてるの?」
岬さんは大きな瞳をぱちくりさせて僕の顔を覗き込んできた。ああ、可愛い。僕の体がかあと熱くなる。
岬さんに会えたらいいなと思って、ぶらぶらしていた。なんて言えるわけもなく、暇だから大学の構内を散歩していると答えた。
「……ふーん」
特に興味も無さそうに、岬さんはスマホに顔を戻した。
どうしよう。もうすぐお昼だ。ご飯に誘ってみようか。でも断られたらどうしよう。どうしよう迷惑だったら。
それからどうしようを心の中でもう10回ほど繰り返した後、僕は思い切って岬さんをお昼に誘ってみた。
「あ、まだいたんだ。この後予定入ってるから、また今度ね」
スマホから顔を上げ、それだけ言うと、またスマホに顔を戻した岬さん。用事があるなら仕方がない。僕は心の中で盛大に溜息をつくと、岬さんに別れを告げてその場を去った。
「田村クン」
振り向くと、メガホンのように口に手を添えた岬さんが、ベンチから立ち上がり僕の名前を呼んでいた。
「またこんど、みんなといっしょにのみにいこうねー」
岬さんは大きな声で言い終えると、手をぶんぶんと振った。僕も負けじと全力で手を振り返した。
岬さんがベンチに座り直し、スマホに視線を落としたのを見届けると、僕はアパートに戻った。
嬉しかった。僕は岬さんのことがもっと好きになった。
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