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その声を聞いたのか真美の母親が部屋に入って来た。
「何なの、大きな声出して!」
「お母さん! お面が喋った」
オッサンのお面を指差して母親に言ったのだが、母親は相手にしてくれなかった。
「何馬鹿な事言ってるのあんたは。しかもこんなに散らかして。そんなんだから結婚も出来ないのよ」
「いや、そこにあるじゃんお面、喋ったんだって」
相手にしてくれない母親にいくら説明しても、やはり理解してもらえなかった。
「あんたまだ酔ってるんじゃない? 早く下りて来ないと朝ごはん片付けちゃうから」
そう言って母親は出て行ってしまった。
母親がいなくなったのを確認してからお面が喋りだした。
「無駄ですよ。私は幽霊ですから。貴女以外には見えていないのでしょう」
真美はオッサンのお面の話を信じられなかった。新手の変態か、でなければ母親の結婚しない娘に対する嫌がらせか、とも思った。
「何でもいいからさっさと出てってよ」
そう言ってオッサンのお面を追い出そうと思って真美は気づいた。お面でも幽霊でもなければ、何故このオッサンは、水面から顔を出すように、部屋の床から顔を出しているのだろうか。
試しに床から顔を引き剥がそうとしたが、床にしっかりとくっついていて、剥がれる気配がなかった。
真美が何とか引き剥がそうと奮闘していると、オッサンの霊が話掛けてきた。
「まずは服を着た方がいいですよ」
言われて真美は自分の格好を思い出した。
真美は下着姿で、床から顔を出しているオッサンの前でしゃがんでいたのだ。相手が幽霊だからまあいいやとはならなかった。
床に散らかったスーツを踏んで歩き、慌ててクローゼットの中から適当なパンツとシャツを引っ掴んで着る。
「な、な、何なんだよあんた!」
恥ずかしさのあまり、真美は声が上ずった。このときには、恐怖心は何処かに行ってしまっていた。
「だから幽霊だって言っているじゃないですか。第一、貴女が連れて来たんですよ?」
真美は全然覚えていなかった。
「昨日貴女がお祭りで、私をお面と間違えて拾ったんじゃないですか」
「どうしたらいいのよ、これ」
「とりあえず喉が渇いたので水を下さい」
リビングでコップに水を入れ、部屋に戻ってオッサンに水を飲ませてあげてから、リビングに戻り朝食を済ませた。
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