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その後オッサンは一日三回の食事と水分を与えてやるだけでスクスクと成長していった。
真美はオッサンと生活しながら、無言でいるのもなんだか気まずかったので、少しづつオッサンと話をしてみた。オッサンが生きていたときのことや、真美に今日起こったこと、そして悩みまで話すようになった。
真美の周りにいる人間とは違い、オッサンは真摯に彼女の話を聞いていた。オッサンは彼女の価値観を否定することは言わなかった。
「育ててもらっている身ですから」
悩みを聞いてもらった感謝をすると、口癖のようにこう言うのだった。
自然と真美は、自分の部屋でオッサンと食事を済ませるようになった。
オッサンが家族や友達以上に自分を見せられる相手になっていたのだ。真美にとって、飲み会のように必要以上に毒を吐く必要もなかったことも、居心地の良さだったのかもしれない。
そうやって意外に楽しく過ごしている内に、ついにオッサンは足首まで成長した。
そして真美は「幽霊の栽培方法」の最後の項目をみた。
「4靴をあげよう
足首まで成長した幽霊には、靴をあげましょう。幽霊に足が無いというのは迷信です。靴を履いて、夜の間に旅立って行きます。できればお似合いの靴をあげましょう。これで栽培終了です」
真美は確か父親が靴を買い換えたばかりで、古い靴はまだ捨てていなかったのを思い出した。
靴箱にあったその靴はくたびれていたが、オッサンに似合ってると真美は思った。
「父親のお古で悪いけど、靴、これでいいかな?」
「いえいえ、こちらこそ今までありがとうございました」
「こっちこそ楽しかったよ。また機会があれば育ててみたいな……じゃあ寝ようか。おやすみ」
「おやすみなさい」
この会話が真美とオッサンの共同生活最後の会話だった。
次の日の朝、真美は昨日のことを思い出し、清々しい気分で目を覚ました。いくら気心知れたといっても、やっぱり一人が楽だった。ベッドから降りてオッサンがいた床を見ると、子どもの顔と目があった。
「ギャーーーーーーーー!!」
しかしその声を聞いて真美の部屋に現れたのは、前回と違って母親ではなくてオッサンだった。
「機会があればまた育ててみたいと言っていたので、植えておきました。また見つけたら持ってきます」
そう言ってオッサンは消えてしまった。
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