背伸びー2

8/30
前へ
/30ページ
次へ
その時、ぼんやりとする私の頭に心地よい声が流れ込む。 「……高遠さん?大丈夫?」 室井さんだった。 彼女の声に答えようとするも、本当に気持ちが悪くて、おまけに頭がぼーっとしている。 私が答えられないでいると、隣の部長が自分の腕から私の手を剥がして言った。 「…なんだかひどい飲み方してな。そっちも藤森君が大変だろう?一緒に二人を送って行こうか。」 「…そうですね。あ、でも、二人とも方向、逆じゃないですか?」 「そうなのか?…でも、室井君も一人じゃ大変だ。先にどちらかを送ってまたどちらかに向かえばいい。タクシーをつかまえよう。」 酔っ払いの私と藤森先輩をよそに、二人の冷静な会話がなんだかむなしい。 部長の腕から離れた自分の手の行き場にも困っていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

307人が本棚に入れています
本棚に追加