年下の男

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成瀬さんがこの手の話をしてくるのは初めてのことだった。 成瀬さんの女性関係の噂は正直言って尊敬できるものじゃない。 来るもの拒まずでありながら、その時限りで社内でも泣いた女性も多いとか……。 俺はこの人にはある種の感情が欠落しているんだと思っていた。 女性を大切にするとか、大切に思うとか、もっと言えば人を好きになるってことがあるんだろうか。 その成瀬さんが室井さんの話題にはやけに食いついてくる。 俺は話を逸らすことにした。 なんだか嫌な予感しかしなかったから。 「データは池口さんが作成してくれるみたいなんで、出来上がったらすぐにもらって仕上げます。」 「わかった。適当にやっとけ。で、お前、書庫で変なことしなかっただろうな?」 「は? し、してませんよ。」 まだ続くのか。 内心舌打ちしながら俺は付け足した。 「出来るわけないでしょ。相手は社内で有名な高嶺の花。俺みたいな新入社員が話しかけるだけでも緊張するのに。」 思わず混ざる本音だった。
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