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年上とは思えない幼い笑顔。
俺は一瞬だけそれに見とれた。
目の奥が揺れる。
でも、
錯覚だ。
「高遠さんて……案外子供っぽいんですね。」
そう言った瞬間、彼女の顔で口がへの字に曲がる。
「うるさいわね。」
彼女は明らかに機嫌を損ねて脚立からも降りてしまった。
そんなに気に障ることを言っただろうか。
俺は少し混乱した。
「年下のあなたにそんなこと言われたくない。」
彼女はそう言いながら脚立を抱えて奥へ行った。
そして、戻ってきて俺の顔も見ないで、俺の前を通り過ぎた。
「もう行かないと。」
俺はわけがわからないままに彼女の後を追った。
書庫のドアの鍵をかけてから彼女が俺の方を振り返る。
「運んでくれてありがとう。」
そう言った彼女の顔には
脚立に乗った時の笑顔は滲んでいなかった。
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