流離の烈火

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流離の烈火

名もなき渡り鳥の群れが風切羽を伸ばして青い大空を舞う、風が少し冷たくなりだした頃。日出ずる東方に位置する国家、剣聖王国『カリバニア』の首都・ブラディールの中でも特に際立って巨大な円形状の建造物を中心に、一年で最も盛り上がる祭典が催されていた。 世界的に高名なとある伝説の舞台になったこの国において、剣というシンボル、引いては強さというステータスは何よりも重要視されている。ここ数年戦争や内紛などは起こっていない平和な国ではあるが、人々の心の中では半ば魂に刻まれた本能のように、「強者の立ち合いを見たい」という燠火のような渇望が燻っていた。 そんな人々の願いを叶えるかのように、作物が豊穣の時を迎える頃に催されるこの祭典は、都市内のみならず王国全土においても人々の心を打ち震わせるのであった。興奮の坩堝にあるその円形状の建造物に目を向けて見れば、そこだけ火口が拓いているかのように熱気が溢れている。そしてその歓声に耳を傾けてみると、人々の声の合間を縫うかのように、激しく鋼がぶつかり合う音や雄叫びも聞こえてくる。その、古代神殿の様式を思わせる柱や、仄暗い石の階段を登った先に広がる光景を目にすれば、そこにはいつもののどかな王国とは全く顔を変えた異世界が広がっていた。 そこでは鎧や防具に身をかためた男が盾と剣を持って対峙し、互いに紙一重の攻防を繰り広げていた。一対の剣が激突し火花を散らせば、人々のボルテージが更にエスカレートし、空を切る刃をさらに力強い物と化していた。 剣聖王国カリバニアにおける秋の風物詩にして一大祭典、「聖剣闘祭」。数百年の歴史を誇る武を競い合う祭典は、今年もまた秋の訪れと共に滞りなく、剣が鎬を削りあう音とともに幕を開けたのであった。
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