流離の烈火

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円形状の建造物…正式名称をブラディール闘技場というその建物は屋根が筒抜けになっており、天高く昇る太陽が惜しげもなく輝きを選手(グラディエイター)達に投げかけている。しっかりと踏み固められた土の上で、太陽に照らし出された剣士の影が躍り、先端鋭き刃の影がもう一方の剣士の影を貫いた。土埃をあげて倒れ込むその様に歓声があがるという光景は一見異様にも見えるが、そう思わせることすら野暮と思えてしまう程に、そこにいる人々は誰もが闘争への興奮に湧き上がっていた。 何故なら、傷ついた剣士達は控室で王室お抱えの癒術士による手厚い看病を受ける事ができ、大会が終わる頃には怪我も完治する事が保障されているという安心感があるからだ。全力で戦い、傷ついても命の保証はできるというその安全神話こそが、一歩間違えば殺しあいと化すはずの闘いを、人々の心を熱くさせるという点において見世物(ショー)のような地位へと昇華させていたのである。 さて、たった今死闘を繰り広げた果てに腹部に一突きを決められて敗北した一人の剣士は即座に担架で運ばれ控室へと搬送されていった。その場は陽の光が届かない、どこか監獄のようにすらも思えてしまうような薄暗い石造りの部屋で、光源は壁際で揺れる蝋燭の灯りだけが頼りであった。 剣士は腹部から全身に走る痛みに顔をしかめながら、どうにか自力で兜を脱ぎ捨てて辺りを見渡す。兜をかぶっていた事による暑さと痛みによる脂汗が額を流れるが、それを布で拭きながら目をこらすと、そこに広がる妙な光景に疑問を抱いた。 「あ、熱い…熱いぜ…」 「気が付いたら…か…体が、燃えてた…一体、何が…うう…」 現在癒術士によって治療されている二人の剣士は、二人共鍛えられた肉体の上に焦げ付いたような傷が一本引かれていたのだ。しかもよほど重い火傷を負ったのか、懸命に氷を当てて冷却することで痛みを和らげているようだった。それを見ていると、その剣士の知り合いの戦士が歩み寄ってきて話しかけて来た。 「よう、お疲れさん。大した盛り上がりだったじゃないか」 「よせよ…前座の余韻が残ってただけだろ。何せ俺の前に戦ってたのは、前年度の優勝者だぜ」 「『盾砕き』のエルペスか。今回も破竹の勢いって感じの太刀筋だったしな」 あの長剣の一撃なんて受けたら本当に死んじまうぜ、と戦士はひょうきんに肩をすくめて見せた。
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