夏の入り口

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◆◆◆ …信じられない。 週の半ば、プレゼン当日。 こんな日に、彼から誘われるなんて夢にも思っていなかった。 『誰かと乾杯…』 …特別な誰かじゃなくて…いいの? …私でいいの? 私のデスクの脇の段ボール箱を立ったまま見つめていた。 でも…夢じゃない。 その時、隣から部長を呼ぶ室井さんの声が聞こえる。 静かな総務室には経理室の声は昼間よりずっと通る。 『こことここ。最終チェックお願いします』 経理室の声と物音は、日中とさほど変わらない慌ただしさだった。 もしかしたら、越石くんの誘いたい人は別だったのかもしれない。 今日のプレゼンの件では彼と室井さんには接点があるから。 ここまで来て、あの声と空気に断念したのかもしれない。 私はため息をつきながら笑った。 …考え過ぎかな。 越石くんが彼女を一人で誘えるはずなんて……ないか。 私はバッグを持って下に急いだ。
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