夏の入り口

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その日の午後。 成瀬さんは珍しく機嫌がいい。 まあ、アレだけ張り詰めていたプレゼンが成功したのだから当然かもしれない。 この俺だって、どこか肩の荷が下りて打ち上げでもしたいくらいだ。 …打ち上げ…。 そうだ。 俺から誘うのは初めてだけど、さっきの話もうやむやだし、成瀬さんを誘ってみようか。 今日は早くあがれるはずだ。 定時後、残業時間に入ったところで成瀬さんは帰り支度を始めていた。 俺は迷わず成瀬さんに声を掛けた。 「成瀬さん。今日、二人でどうですか?」 俺はグラスを傾ける仕草をした。 「お、お前からの誘いなんてうれしいねえ。でもワリイ。今日は先約」 その顔つきが気になって、思わず声が漏れていた。 「…室井さん…ですか?」 「バーカ。ちげーよ。そんなに心配なら俺が帰った後事務所に見に行って来いよ。きっとカリカリ残業こなしてるぜ。じゃあ、お先。あ、また誘えよ」 成瀬さんは本当に先約があるらしく、慌ただしくフロアを出て行った。
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