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「…あ」
小さく漏れた声は
きっと彼には届かないだろう。
「あ、高遠さん、まだいたんだ」
「もう…帰るとこ」
短く返事をして、隣の経理部に目をやる。
隣からは琴美と室井さんの声がする。
部長と池口さんの声は聞こえないのできっと琴美と彼女が二人きり。
残業に入るまでの休憩時間なので二人の声は明るく響いていた。
「…なんだか楽しそうだな」
越石くんが経理部の方を気にしながら言った。
「…そうね。これから残業だし、束の間の時間なんだよ、きっと」
「…そっか」
「今なら話せるかもよ。…私、琴美のこと、こっちに呼び出してあげようか?」
「そ、そんなこといいですよ。…二人になったら緊張するし、…用事があったのは高遠さんだから」
「…私?」
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