第1話 亀はクールにゴールを目指す

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カラン。カラン。 ふいに若い男が美容室に入ってきた。 ファッション誌から抜け出したような洗練されたスーツ姿の美男子だ。 「ああっ?」 カメオは思わず声を上げた。 まさかと思い、二度見する。 よく見ると、やっぱり『カットの貴公子』栗本恭平だ。 「…蔵人さん。ご無沙汰して…」 言い掛ける恭平の挨拶を遮るように、 「あ~っ。恭平っ?さっきテレビに出てたっ。スゲー。本物っ?」 カメオは興奮して叫んだ。 「……」 恭平を見るなり、蔵人はイヤ~な顔になる。 「俺、俺。いっつもテレビ観てるっす~。恭平さんの店って、表参道と代官山なんすよねっ?あっ。写メいいっすか?」 カメオはバタバタとケータイを取り出す。 「……」 恭平は出端をくじかれたような顔をしたが、 「…あ、ああ。いいよ」 すぐに愛想良く応じた。 カシャ。カシャ。 カメオは恭平と顔を寄せツーショットを撮る。 ニッコリ…。 恭平は貴公子然と微笑んだ。 「やたっ。ママに送信しよ~」 カメオはミーハーまるだしで、嬉々とする。 それをいまいましげに見て、 「タレントじゃあるめーしよ」 蔵人は『ケッ』と吐き捨てるように言った。 「……」 恭平は冷めた表情で蔵人を見ている。 「美容師は客の髪いじってりゃあいいだろ~?それをなんでタレント気取りで、わざわざ、テレビなんかに出てよ~」 蔵人は小馬鹿にしたように言った。 恭平はフ…ッと冷笑を浮かべる。 「店の宣伝になるからに決まってるじゃないですか。オーナーとしては経営のことも考えないと…。自分の店、つぶしたくないですからね~」 今や、つぶれたも同然の荒れた美容室を見渡し、 「…それに今度また支店を一件増やす予定ですから…」 意味有りげに言って、恭平はうなずいた。 蔵人はますます不快そうな表情になり、 「自慢か?何しに来たんだよ…ってか帰れよっ」 苛立って怒鳴る。 「帰りますよ。もう用事は済みましたから…。じゃ」 踵を返すと恭平はさっさと店を後にした。
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