6人が本棚に入れています
本棚に追加
カラン。カラン。
ふいに若い男が美容室に入ってきた。
ファッション誌から抜け出したような洗練されたスーツ姿の美男子だ。
「ああっ?」
カメオは思わず声を上げた。
まさかと思い、二度見する。
よく見ると、やっぱり『カットの貴公子』栗本恭平だ。
「…蔵人さん。ご無沙汰して…」
言い掛ける恭平の挨拶を遮るように、
「あ~っ。恭平っ?さっきテレビに出てたっ。スゲー。本物っ?」
カメオは興奮して叫んだ。
「……」
恭平を見るなり、蔵人はイヤ~な顔になる。
「俺、俺。いっつもテレビ観てるっす~。恭平さんの店って、表参道と代官山なんすよねっ?あっ。写メいいっすか?」
カメオはバタバタとケータイを取り出す。
「……」
恭平は出端をくじかれたような顔をしたが、
「…あ、ああ。いいよ」
すぐに愛想良く応じた。
カシャ。カシャ。
カメオは恭平と顔を寄せツーショットを撮る。
ニッコリ…。
恭平は貴公子然と微笑んだ。
「やたっ。ママに送信しよ~」
カメオはミーハーまるだしで、嬉々とする。
それをいまいましげに見て、
「タレントじゃあるめーしよ」
蔵人は『ケッ』と吐き捨てるように言った。
「……」
恭平は冷めた表情で蔵人を見ている。
「美容師は客の髪いじってりゃあいいだろ~?それをなんでタレント気取りで、わざわざ、テレビなんかに出てよ~」
蔵人は小馬鹿にしたように言った。
恭平はフ…ッと冷笑を浮かべる。
「店の宣伝になるからに決まってるじゃないですか。オーナーとしては経営のことも考えないと…。自分の店、つぶしたくないですからね~」
今や、つぶれたも同然の荒れた美容室を見渡し、
「…それに今度また支店を一件増やす予定ですから…」
意味有りげに言って、恭平はうなずいた。
蔵人はますます不快そうな表情になり、
「自慢か?何しに来たんだよ…ってか帰れよっ」
苛立って怒鳴る。
「帰りますよ。もう用事は済みましたから…。じゃ」
踵を返すと恭平はさっさと店を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!