第1話 亀はクールにゴールを目指す

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カラン。カラン。 「蔵人。久しぶりっ」 突然、カメオの背後からスレンダーな女が美容室に入ってきた。 スラリと背が高くモデルのようなプロポーションをしている。 「やだっ。ヤニ臭い。あんた、いつから煙草なんて?美容師が煙草吸うなんて信じらんないわねっ」 入るなり顔をしかめ、手でパタパタと扇ぐ。 キツイ口調どおりに勝気そうな眼元のキリッとした美人だ。 「…アヤ?なんで、ここに…?」  蔵人が『リッチ』にいた頃の同僚の美容師、高橋アヤである。 「……」 予期せぬアヤの来訪に蔵人は眉をひそめた。 「あら?恭平に聞いてない?わたし、ここ支店にしたら店長を任せて貰うことになったの」 カッシャーーーーーン…。 蔵人の右手からシザーがこぼれ落ちた。 恭平の憧れの先輩=俺。 という勘違いに蔵人は気付いた。 「……」 床に落ちた足元のシザーを見つめる。 一瞬、虚しい表情になるが、 「……」  すぐに蔵人は、片頬で苦笑した。
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