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「……?」
怪訝そうに床のシザーを一瞥するとアヤは勝手に客用の椅子に腰を掛けた。
鏡に映る自分の髪を手ぐしで直しながら話し始める。
「実を言うとさ。わたしも恭平も、サオリから相談されてたのよ。『クロちゃんの店、何とかして欲しい』って…」
「…店?」
蔵人の顔が曇る。
『蔵人』のことより『店』の相談をしたのか、サオリは…。
「でさ。恭平がこの店、見に来たら海岸近くでロケーションはいいし、外観も洒落てるでしょ?支店にいいんじゃないかって。わたし雇われ店長やってた店がオーナーの借金でつぶれちゃって困ってたのよね。…そしたら恭平が、ここを任せるから、やらないかって。持つべきものは出世した後輩よね」
店内を見渡し、アヤは浮き浮きとして言った。
「わたしなら、絶対、成功させてみせ…」
「ちょっと待てよ。こっ、ここは俺の店なんだぜ。なに勝手に決めてんだよっ」
アヤの言葉を遮り、蔵人は声を荒げた。
「蔵人がやったって客来ないじゃない、この店。恭平に貸しなさいよ。そしたら、あんた家賃収入で暮らせるじゃない。毎日、好きなサーフィンしてれば?」
アヤは馬鹿にした笑うような声で冷たく言い放った。
「何だよ。嫌味か?…誰が、この店、貸すかよっ。ふざけんなよっ。帰れよっ」
ギィッ!
蔵人はアヤの座った椅子を乱暴に半転させる。
「きゃっ」
振り落とされそうになったアヤは慌てて立ち上がって蔵人を睨んだ。
「…感謝されるどころか、この態度だものねっ。いいわよ。もう」
足早にドアの前に立つと振り返って、
「…知ってる?蔵人。サオリね。今、年下のお医者さんと長崎で暮らしてるの。ずいぶん前からのお付き合いだったみたいね」
アヤは意地悪な笑顔で言った。
「……」
カメオはドキッとして蔵人を見る。
「……」
背を向けた蔵人の表情は分からない。
アヤが美容室を出る。
「……」
カメオも続いて出た。
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