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居酒屋『うっちゃり』
コトン…。
カウンター席に座ったアヤの前にカメオはビールを置いた。
「…そう。あなた、カメオ君なんだ。サオリから聞いてるわ。サオリとは元々わたしが友達だったのよ。で、同じ『リッチ』にいた蔵人を紹介して。だけど、あんなの紹介しちゃって責任感じてたのよね。良かったわ。別れてくれて」
アヤはググッとビールを飲み干した。
「……」
黙っているカメオに構わず話し続け、
「あの美容室だって『俺の俺の』って蔵人言うけど。サオリのお祖母ちゃんが元々昔あそこで甘味屋やっていたとこを借りて改装したのよ。そっれをエラソーにっ」
アヤはムシャクシャした様子で焼き鳥を食いちぎり、串を皿に投げる。
「…そうそう。甘味屋あった、あった…」
ママと大将が小声でうなずく。
調理や何やらと手を動かしながらも興味津々と聞き耳を立てている。
「あの…」
なおも焼き鳥を頬張るアヤの様子を伺いつつ、
カメオは決心したように口を開いた。
「…恭平さんの支店で蔵人さん働けないっすかね…?」
「え?」
カメオの言葉にアヤは眼を丸くしブーッと噴き出した。
「アイツの性格、知ってるでしょぉ?蔵人が後輩の支店なんかで働く訳ないじゃない。ウヒャヒャ…」
「ん~…」
『それもそうか…』とカメオはうなだれる。
「蔵人『リッチ』の頃は二十代半ばだったし、『イケメン美容師』なんて言われて雑誌なんか出て、そりゃあ人気だったわ。それで天狗になって、独立して、あの有様でしょ?人生なげやりでしょ?過去の栄光が忘れられないのよ。馬っ鹿みたいっ」
アヤは吐き捨てるように言った。
「……」
だが、言った後で眼が寂しげになる。
カメオはガッカリすると、
「……」
居酒屋の斜め向かい三軒目の明かりの無い蔵人の美容室の方へ眼を向けた。
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