第1話 亀はクールにゴールを目指す

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美容室『くろうど』の薄暗い店内。 「……」 蔵人は床に大の字に仰向けになっていた。 バルコニー側の大きな窓は開け放して、西陽が強く射し込んでいる。 天井の梁で風で小刻みに廻る天井扇を蔵人は見つめていた。 「……」 菱形の木製の格子に硝子のはまったドア。 真鍮製のドアベル。 深緑の革張りの長椅子。 チェストの上の古いラヂオ。 骨董のランプ。 蔵人は順々に眼で追った。 どれもサオリと二人で骨董店巡りをしながら揃えた品だった。 ランプの色はグリーンとオレンジのどちらにしようか悩んだあげく、サオリがオレンジに決めた。 夕陽に映えるランプを見て、 『ね。オレンジにして正解だったね』 満足げに微笑んだサオリの顔が思い浮かぶ。 「……」 蔵人は虚ろにランプを見つめた。
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