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数日後。
居酒屋『うっちゃり』
「豚レバーの味噌漬け。チキンカツ…」
バイトが上がったカメオがいつものようにタッパーに残り物を詰める。
それを見ていたママは、
「店の食べ物なんか、いっくらでも持ってってあげていいけどねぇ。お金だけは貨しちゃ駄目よぉ。…この間のアヤさんってヒトの話じゃあ蔵人さんって、女のヒトにず~っと養って貰ってたんじゃない?そういうヒトって借金、返さないのヘッチャラなんだからぁ」
忠告するように言った。
「はあ…」
すでに貸してしまっているのでカメオは何も言えない。
その時、
ガシャン!!
外で大きな音がした。
「やだ。事故っ?」
何事かとママがカウンターの中の小窓から外を覗いたとたん、
「カメちゃんっっ。大変っ」
顔色を変えて叫んだ。
『火事だぞ!』と通行人の大声がする。
「……っ」
ガラッ!
カメオが引き戸を開ける。
外を見ると美容室『くろうど』の窓から黒煙が噴き出している。
ガッシャーーンーッッ!
ドアに体当たりするように蔵人が道路に転げ出てきた。
火だるまだ。
「蔵人さんっっ!」
カメオが叫んで外に駆け出した。
「あわわ…」
ママは思わず厨房のフライパンを手にして右往左往する。
大将がカウンターから飛び出した。
「馬鹿っ。119番っっ」
ママに怒鳴って座敷席の座布団を両手に二枚掴み、外に駆け出す。
「カメっ」
大将が座布団を一枚、カメオに投げる。
バンッ!バンッ!
カメオと大将が座布団を振り下ろし、蔵人の火を叩き消した。
数日後の昼過ぎ。
海辺の田舎町で一番大きい中村病院。
個室の病室。
蔵人はミイラ男のように包帯を巻き、点滴をしてベッドに横たわっている。
付き添うカメオに気まずそうに眼を向け、
「…いや~、寝煙草でよ~。…ばいっだよ…。あどダンボールに火が移っだどが、古いズブレー缶に引火じでアッどいう間に燃え上がっで、手が付げらんねぇど、なんどっで…。ゲホゲホ…」
映画『犬神家の一族』の助清のような嗄れ声で蔵人は話した。
「蔵人さん…。煙で喉も痛めてるのに、しゃべんないほうが…」
カメオは沈痛な表情になる。
「…店。どうなっでだ?」
「もう、解体業者が来てて…」
「へええ。ぞう」
蔵人は他人事のようにアッサリと言った。
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