第1話 亀はクールにゴールを目指す

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数日後。 居酒屋『うっちゃり』 「豚レバーの味噌漬け。チキンカツ…」 バイトが上がったカメオがいつものようにタッパーに残り物を詰める。 それを見ていたママは、 「店の食べ物なんか、いっくらでも持ってってあげていいけどねぇ。お金だけは貨しちゃ駄目よぉ。…この間のアヤさんってヒトの話じゃあ蔵人さんって、女のヒトにず~っと養って貰ってたんじゃない?そういうヒトって借金、返さないのヘッチャラなんだからぁ」 忠告するように言った。 「はあ…」 すでに貸してしまっているのでカメオは何も言えない。 その時、 ガシャン!! 外で大きな音がした。 「やだ。事故っ?」 何事かとママがカウンターの中の小窓から外を覗いたとたん、 「カメちゃんっっ。大変っ」 顔色を変えて叫んだ。 『火事だぞ!』と通行人の大声がする。 「……っ」 ガラッ! カメオが引き戸を開ける。 外を見ると美容室『くろうど』の窓から黒煙が噴き出している。 ガッシャーーンーッッ! ドアに体当たりするように蔵人が道路に転げ出てきた。 火だるまだ。 「蔵人さんっっ!」 カメオが叫んで外に駆け出した。 「あわわ…」 ママは思わず厨房のフライパンを手にして右往左往する。 大将がカウンターから飛び出した。 「馬鹿っ。119番っっ」 ママに怒鳴って座敷席の座布団を両手に二枚掴み、外に駆け出す。 「カメっ」 大将が座布団を一枚、カメオに投げる。 バンッ!バンッ! カメオと大将が座布団を振り下ろし、蔵人の火を叩き消した。 数日後の昼過ぎ。 海辺の田舎町で一番大きい中村病院。 個室の病室。 蔵人はミイラ男のように包帯を巻き、点滴をしてベッドに横たわっている。 付き添うカメオに気まずそうに眼を向け、 「…いや~、寝煙草でよ~。…ばいっだよ…。あどダンボールに火が移っだどが、古いズブレー缶に引火じでアッどいう間に燃え上がっで、手が付げらんねぇど、なんどっで…。ゲホゲホ…」 映画『犬神家の一族』の助清のような嗄れ声で蔵人は話した。 「蔵人さん…。煙で喉も痛めてるのに、しゃべんないほうが…」 カメオは沈痛な表情になる。 「…店。どうなっでだ?」 「もう、解体業者が来てて…」 「へええ。ぞう」 蔵人は他人事のようにアッサリと言った。
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