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大部屋の病室。
蔵人は窓際の自分のベッドに戻った。
カメオが昼食のトレイをベッドのテーブルの上に置く。
「…鈴木さん。食事の時間には、ちゃんと病室に戻って下さいね」
眼鏡の若い女医が無愛想に蔵人に向かって言った。
カメオは蔵人が入院して初めて苗字が『鈴木』と知った。
『スズキ クロウド』
なんだか自動車のような名前だなと思った。
もっとも蔵人もカメオの苗字は知らないようだった。
「…あのブス。うるせぇんだよ」
女医の後ろ姿にコソッと言って、蔵人は不味そうに病院の昼食を食べ始める。
「……」
カメオはちょっと苦笑いを浮かべた。
大きなユニクロの袋を窓際に置く。
「来週、退院でしょ。…これ、着替え」
「んあ。サンキュ」
蔵人がモグモグしながら言う。
「あ、カメちゃん。プリンあるわよ」
他の患者を診ていた女医が病室を去り際にカメオに気安く声を掛けて出ていった。
「……?」
蔵人は?の浮かんだ顔でカメオを見る。
「……」
カメオはバツが悪そうな顔になる。
「…なに?知り合い?」
蔵人が訊く。
「俺の姉貴…。ここ…、うちの病院なんす」
カメオは言いにくそうに答えた。
「……」
蔵人はポカンとする。
「…え…?あ?お前。この中村病院の息子?」
「……」
カメオは申し訳なさそうにうなずく。
『中村カメオ』
それがカメオの姓名だ。
「……」
黙ったまま口にくわえた箸をブラブラさせていた蔵人が、
「俺。今までよ。さんざん怪我したお前を助けて医者に運んでやったって、恩着せたけど。よく一度も家が病院だって言わなかったよな?」
つまらなさそうに言った。
「…なんか、言い出せなくて」
カメオはうつむく。
「そういうの、後で知るとホントいい面の皮だよな~。俺」
不機嫌そうに、蔵人はムスッとした。
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