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あくる日。
大部屋の病室。
「…これ、居酒屋の大将から。蔵人さんに渡してくれ…って。お見舞い」
カメオが包みを差し出す。
「お♪」
蔵人は素早く受け取って中身を確認した。
五万円。
「悪いな~。商店街の付き合いも出たことねぇのによ」
ピロロ~ン♪
ケータイの着メロが鳴る。
カメオのジーンズの後ろポケットから、蔵人が勝手にケータイを抜き取った。
「てめっ。病院では電源、切るんだろ~?」
言いながらケータイを開く。
「あっ。ちょっ、勝手にメール見ないで下さいよっ」
「いいじゃんよ。イヒヒ。…あ?…なんだよ。男からじゃん」
大人げなく、ふざけながら、
「え~?…『男のコが産まれました』…」
蔵人がメールを読み上げる。
「……!」
ドキンッとしてカメオは蔵人の手からケータイを奪おうとした。
「……?」
画面を見て表情が変わり、蔵人はカメオの手を制する。
「……サオリ…?」
画像には赤ん坊を抱いたサオリ。
そのサオリの肩を抱いた青年と映っている。
蔵人は画面に眼を凝らし、
「……」
絶句している。
カメオは観念したように口を開いた。
「…サオリさんと長崎で暮らしてるの、…俺の兄貴なんす…」
「……」
「俺、ずっと…言えなくて…」
「……」
蔵人は表情の無い眼で画面を見ている。
画面のサオリはニッコリと笑顔だ。
「…幸せそうじゃん」
画面のサオリに言ったのか、
独り言なのか、
蔵人はポソリと呟くとケータイをパチンと閉じ、ベッドの上にポンッと投げ、ゴロリと寝転がった。
「……」
カメオは無言のままケータイを取って、病室を出ていく。
仰向けで病室の天井を見つめ、
「そか…。サオリ、ここの嫁さんなんだ」
蔵人は皮肉そうに片頬で笑った。
二年前のカメオが高二の夏。
タナカ診療所の処置室。
「……」
捻挫したカメオがサオリの巻いてくれた足首の包帯を眺めていると、
「…カメオ君。お迎えにいらっしゃったわよ。お兄さん」
サオリがカメオの兄を案内してきた。
「どうぞ」
廊下の兄を見返りサオリがニッコリとした。
「……」
カメオの兄の万亀男は美しいナースのサオリに一目惚れだった。
偶然とはいえ、サオリと兄を引き合わせたのはカメオだったのだ。
中村病院の脇のなだらかな坂道。
カメオはケータイを片手にメールを打ちながら歩いた。
「お・め・で・と・う。…返信っと…」
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