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七.カメオの道
(あれから蔵人さんはホントにどこかへ行ってしまったらしい…)
数日後。
いつもどおりにカメオは横断歩道に立った。
「……」
公園のベンチではスケッチ少女が相変わらず真剣な表情で今は花壇のコスモスをスケッチしている。
カメオはボンヤリと眺める。
(…薄情な俺を責めずに蔵人さんは姿を消した…)
(ホントは優しいヒトなんだと思った)
信号が青に変わる。
(俺は…)
カメオは横断歩道を渡り出した。
「カチャ…。キイィ…」
スケッチ少女は小さく呟いて、
銀細工の鍵を指先に摘まみ、鍵を開ける真似をした。
カメオは商店街を歩く。
『チャレンジ・ショップ』を覗くと、山田が隣の店の主婦に張り合うように客相手にセールス・トークに夢中の様子が見える。
数日前に銀細工の鍵が売れたと山田は嬉しそうに言っていた。
「……」
カメオは感心した表情になる。
看板の『チャレンジ』の文字を見つめる。
わざと『決意した』というような顔をして勢いよく歩き出す。
カメオは向かいの書店に入った。
「……」
書棚をキョロキョロと見る。
目当ての書棚を見つけ前に立ち、見上げた。
看護関係の本がズラリと並んでいる。
居酒屋『うっちゃり』
ガラッ。
「おはよ~っす~」
慌ててカメオが駆け込んでくる。
「カメ。遅刻だぞっ」
大将はいつもどおり仕込みの真っ最中だ。
「たったの五分よぉ」
ママが大きな口を開けて笑う。
「すいません~」
カメオは急いで書店の袋を隅に置く。
書店の袋からは看護専門学校の資料の本が覗いて見える。
カメオは藍染の上衣をパパッと着て、頭にバンダナを巻き、後ろで結んでキュッと締めた。
壁の鏡でチェック。
シルバーの亀が首元で輝いている。
(第二話につづく)
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