第2話 狐の嫁入り

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一.カメオの家 年が明けて一月になった。 田舎町の旧家のカメオの自宅は中村病院の裏手に建っている。 まるで老舗旅館のような佇まいの屋敷だ。 広い居間。 ソファーの周囲にはオモチャや絵本などが『これでもかっ』と積み上げられている。 「グスン、グスン…」 カメオは山盛りのぬいぐるみと並んでソファーに座ってアニメ『あらしのよるに』のDVDを観ていた。 狼とヤギの友情物語。 「グスン…」 二匹の再会の場面でカメオはボタボタと雨のように涙を落とす。 「…あ~。思わずヤギのメイに感情移入してしまった…。ズズ…」 ティッシュで鼻をかむ。 その時、医師の白衣のまま、姉の千鶴子が居間に入ってきた。 カメオは慌ててティッシュで涙を拭いて平静を装う。 「あれ。姉ちゃん、どしたの?」 「オヤツ休憩」 言いながら千鶴子は手に提げた長崎カステラの紙袋を見せた。 「あ…。兄ちゃん達。もう長崎から帰ってんだ?」 「さっき病院に顔出して、すぐサオリさんの前の勤め先に挨拶に行ったわ。…まだ絵本もオモチャも早いわよね」 千鶴子はオモチャの山を邪魔そうに足先でどけてキッチンへ行き、長崎土産のカステラを切った。 古い家屋に似合わずキッチンはピカピカの最新式のシステムキッチンだ。 シンクが居間を向いて対面式になっている。 母のつる子は忙しい産婦人科医で中村家には,これまで主婦がいなかった。 長男の万亀男の『できちゃった結婚』に大喜びした父母は嫁のサオリのために古いキッチンをリフォームした。 『キッチンは主婦のお城だから』 家事とは無縁のつる子はそう言った。 中村家は嫁と孫を迎える意気込みに溢れていた。 オモチャの山もそれである。
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