第2話 狐の嫁入り

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ポツポツと日照り雨が降り出した。 「長崎にいる間に、ここらへん変わったな~。あそこの薬局の前の角の店、いつの間にか無くなってるし」 プリウスを運転しながら万亀男が商店街を眺めて言った。 カメオの兄の万亀男は青年医師に相応しい清潔感のある誠実そうな温厚そうな雰囲気の青年である。 ただ、やっぱり平板な顔立ちだ。 「そお…?」 後部座席で横のチャイルドシートの赤ん坊を見ていたサオリが窓から外に顔を向け、 「……!」 ハッと驚いて、眼を見張った。 美容室『くろうど』の店の場所が更地になっている…。 「……」 走り去る車の窓から、サオリは眼を疑うように更地を見つめた。 四時過ぎ。 「可愛い~…」 中村家の居間では帰宅した万亀男が抱いた赤ん坊をカメオ、姉の千鶴子、母のつる子の三人が取り囲んでいた。 予定日より早い出産だったが、赤ん坊はスクスクと育ち、コロコロと玉のような男のコだ。 「名前、マサキだっけ?」 千鶴子が赤ん坊の頬をちょいちょいと突っつく。 「正しい亀と書いて『正亀』。男子に『亀』の字を付ける江戸時代からの我が家の伝統を俺の代で崩したりしたら、ご先祖様に申し訳ないって…サオリさんが言ってくれてね」 万亀男は自慢げにデレデレとする。 「正は父ちゃんの名前『正男』から取ったんだ?…父ちゃん、喜んでたし」 カメオも赤ん坊の頬を突っつく。 「そ、それも、サオリさんの提案で…」 万亀男はさらに自慢げにデレデレとする。 「ポイント稼ぐわね~。サオリさん」 千鶴子は嫌味っぽく笑った。
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