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「ほ~ら。マー坊。バアバよ~」
つる子が万亀男から赤ん坊を抱き取って、『ベロベロバア~』と赤ん坊をあやす時の定番の顔をする。
学生時代のつる子は『慶喜大医学部の松坂慶子』と呼ばれ、男子学生のマドンナだった。
三人の子供の中でカメオだけが母親の容姿を受け継いでいる。
「あら。笑った?分かるのね~。バアバよ~」
つる子は初孫にメロメロといった表情だ。
「やあね。お母さん、甘い声、出しちゃってさ。サオリさんが五歳も年上だからブウブウ言ってたくせに」
千鶴子は面白くなさそうだ。
「ああ。姉貴。五歳じゃないよ。四歳上」
万亀男は一歳の違いに細かくこだわる。
「兄ちゃんそっくりだね。この眼元とか」
カメオは万亀男と赤ん坊を交互に見比べた。
「ただいま~」
能天気そうな声で言いながら、父の正男がぬいぐるみの袋を提げて居間へ入ってきた。
正男は眼鏡を掛けて顔立ちは平板だが背が高くスマートで紳士的だ。
名前に『亀』の字が付いていないのは婿養子だからである。
つる子には妹しかいない。
正男とつる子は同じ慶喜大医学部で出逢い、学生結婚した。
ちなみに女子には名前に『鶴』の字を付けるのが中村家の慣わしである。
「…あれ?サオリさんは?」
居間をキョロキョロと見て正男が訊ねた。
「あ~。『ベビー綿棒が無い』とか言ってた。買い物、行ったんじゃない?…あっ。お父さん。また、こんな買ってきて~」
正男から袋を受け取って千鶴子はぬいぐるみをウンザリ…と見つめる。
(…サオリさん、もしかして…?)
サオリの行き先に思い当たり、カメオは気になる表情になった。
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