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二.蔵人の消息
「ハアハア…」
息を切らしながらサオリは商店街に走って来ていた。
更地の前に立つ。
美容室『くろうど』は跡形も無い。
近くの居酒屋のママが歩道を掃き掃除しているのに眼を留め、サオリはママに走り寄る。
「あ~っ。あの美容室?」
気さくで話好きそうなママはサオリの問い掛けに『我が意を得た』とばかりに話し始めた。
「焼けちゃったのよぉ。…去年の夏頃だったかしらね。もぉう、大変っ。そこのヒト、火だるまでねっ。うちの旦那とバイトのコが座布団で、こうっ…」
ママは手を振り上げ、火を叩き消す真似をする。
「……っ!」
『火だるま』と聞いてサオリは青ざめた。
「わたしってば慌ててフライパン持って出ようとして。ギャハハッ。でも、うちの旦那、ほらっ、元力士だから。すぐ座布団って思い付いたんじゃない?でねっ、わたしが119番したんだけど…」
ペラペラとママは話を続ける。
今まで近所や店の客にさんざん聞かせた話題だが、久々の聞き手にママはハッスルしていた。
「…あのっ」
ママが息継ぎをしたタイミングにサオリは素早く訊ねた。
「そ、それで、美容室のヒト…」
何よりもサオリには蔵人のことが気になる。
「そりゃ大火傷よぉ。割れたガラスで怪我もしたらしいしぃ。…二ヶ月か入院してたのかしらね?でも、勝手に病院、出てっちゃったのよぉっ…」
ママは『フンッ』と鼻息を飛ばす。
「……」
サオリは悲壮な表情で更地を見つめた。
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