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ガララ…。
店の引き戸が開き、男女の二人連れの客が入ってきた。
「ごめんなさい。まだ準備中…っ」
ママは振り返って、ビックリ顔になった。
「お久しぶり~」
来客はアヤと恭平である。
「きょっ、恭平~~~っ」
眼を丸くして、ママが絶叫した。
アヤと恭平がカウンター席に座る。
「……」
ママはお茶を淹れながら恭平をチラチラと見てソワソワと落ち着かない様子である。
「やっぱり支店出すのに、あの場所がどうしても忘れられなくて。今日、地主さんに逢ってきたんだ」
恭平が隣に座ったカメオに話した。
ママが堪えきれずに口を挟んで、
「それ、あの火事で焼けちゃった蔵人さんの美容室があった場所?あそこに、うちの斜め向かい三軒目に、恭平さんの『ヘアサロン・マロン』の支店が出来るのっ?」
歓喜の表情を浮かべる。
「…地主さんってサオリさんのお祖母さんっすか?」
カメオが訊ねる。
「あ…。そうか。サオリさん、キミのお兄さんと結婚したんだっけね」
恭平は思い出したように言った。
「わたし、支店オープンするまでに、こっちに引っ越すから。よろしくね」
アヤはオープンが待ち遠しそうだった。
「『マロン』の支店が出来るのは、だいぶ先なんでしょ?」
訊きながらママがカウンターにお茶を置く。
「そうなんだけど。うちのコ。来年、小学校なの。入学前から、こっちに慣れさせたいし。…わたし、シングル・マザーなのよ」
スレンダー美人のアヤはとても子持ちには見えない。
「へええ。そうなんだ」
カメオは意外そうにアヤを見た。
「…うちのコ、喘息持ちで…。空気の良いとこに住みたかったの。恭平がここの支店で店長を任せるって言ってくれてホント有難いわ」
そう言うアヤの言葉を聞きながら、
「……」
恭平は想いを込めた眼でアヤの横顔を見つめている。
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