6人が本棚に入れています
本棚に追加
それに気が付く様子も無く、
「…あら?あの写真」
アヤがカウンターの中に置いてあるB5サイズほどの写真立てに眼を留めた。
「ああ。うちのヒト。元力士なのよぉ」
ママが得意そうに化粧回し姿の大将の写真を取り、アヤに手渡す。
「えっ?ホントに?」
恭平が写真を覗き込んで化粧回しの刺繍の文字を読む。
「…琴岩石…?大将、佐渡ヶ嶽部屋だったんですかっ?」
にわかに恭平の眼が輝く。
「あ。恭平、お相撲、大好きなのよね」
可笑しそうにアヤが言う。
「へええ~」
意外そうな顔をするカメオ。ママ。大将。
貴公子のような恭平と大相撲は似合わない。
「あの肉と肉のぶつかり合い。ビッタンビッタンいう感じが堪らないですよねっ。東京の場所には必ず行ってますっ」
恭平がキレイな二重の眼をキラキラさせて熱っぽく言うと、
「ほお~」
大将の腫れぼったい一重の眼も輝く。
たちまち相撲談義で打ち解ける大将と恭平だった。
「うぬぬ…」
「うりゃっ」
数分後には二人は座敷のテーブルを隅にどけ、大将が恭平に得意技うっちゃりを伝授し始めた。
「のこった。のこった」
団扇を手にママが行司の真似をする。
ゴロン!
大将にうっちゃられて畳にゴロリと倒れ、
「ウハハッ。ま、まいった~」
恭平は子供のようにケタケタと笑った。
「あんなに美男子なのに恭平さんって、ちっとも気取らなくて屈託の無いヒトよねぇ」
ママはますます恭平にウットリとする。
「…恭平さん。最初、蔵人さんの店で逢った時には嫌味なヒトだな~と思ったけど…」
カメオは今の恭平には好印象を持った。
アヤはフフッと笑って、
「あ~。嫌味よ。蔵人にはね。『リッチ』にいた頃に『下手くそ、下手くそ』言われて蔵人によく泣かされたから。…リベンジなのよ。恭平」
ふいに思い出したように、
「あっ。蔵人ね。やっぱり東京に戻って来てるみたいよ。知り合いが飲み屋、手伝ってる蔵人に逢ったって…」
アヤが言った。
「え?」
それを聞いて、カメオの眼も輝く。
「ホ、ホントっすかっ?何ていう店すかっ?」
せっつくようにアヤに訊ねる。
「あ~。聞かなかった。…いいわ。そのヒトに訊いて分かったら、カメオ君にメールする」
ケータイを取り出すアヤとカメオ。
お互いのメールアドレスを教え合った。
最初のコメントを投稿しよう!