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四.兄嫁
あくる朝。
トタ。トタ。
カメオが二階から階段を降りてくると、
「カメオ君…」
キッチンから出てきたサオリが呼び止め、廊下の隅に促した。
「……」
カメオはサオリの姿を上から下まで見た。
サオリに逢うのは昨年の四月末以来だった。
久々に逢ったサオリはセミロングの髪を後ろでキュッと一つ結びにし、ローズピンクのニット。
グレーの膝下丈のフレアスカート。
チューリップ柄のエプロンをしている。
万亀男はこういう甘い色合いの女らしい服が好きなのだ。
以前のサオリは黒や紺、生成りなどシックな服を着ていた。
今は、まるで、若奥様のサンプルのようだ。
サオリは深刻な面持ちで声を潜め、
「…どうして、火事のこと教えてくれなかったの?」
責めるような眼でカメオを見る。
「…そんなこと、サオリさんに言うこと…」
カメオはサオリから眼をそらす。
「…クロちゃん。どこに行ったの?」
「知らないよ。蔵人さん、勝手に出てっちゃったんだから」
カメオはわざと冷淡に言った。
「そんな冷たいこと…」
「蔵人さんのこと、そんなに気にするなんて…蔵人さん捨てて出て行ったの、サオリさんなのに…」
「す、捨てたなんて…、そんな…」
サオリは声を詰まらせた。
「……」
洗面所から出てきた万亀男が二人を廊下の角で見ている。
千鶴子もやってきて二人に気付いた。
「な~に?サオリさん、コソコソと…。カメちゃんのことまで誘惑する気かしらね?」
「何、言ってるんだよ。なんでサオリさんがそんなことするんだよ?」
「趣味なんじゃない?年下の男、誘惑するの」
千鶴子が万亀男をからかって笑った。
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