第2話 狐の嫁入り

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五.初めての東京 その日の夕暮れ時。 東京のダウンタウン。 (ゲ…。なにっ?ヒトだらけ) カメオは地下鉄を降りたとたん、あまりの人間の多さに面喰らった。 東京といっても人混みは新宿や池袋とかだけだろうと高を括っていたカメオは、このダウンタウンの駅の乗降者数が新宿並みなどとは想像だにしていなかったのだ。 (…えっと、西口の…) カメオは蔵人のいるらしい飲み屋を探しながら場末の繁華街を歩いた。 田舎者まるだしで恐々として、眼をキョロキョロしている。 人混みを縫って歩けない。 看板を見るのに気をとられ、前方から歩いてきたサラリーマン風の眼鏡の男にぶつかる。 ドンッ! 「す、すいませんっ」 男の落とした書類袋をカメオは平謝りに拾う。 さらに歩き出すと、ホステス風の若いグラマーな女にぶつかる。 ボヨンッ! 「…す、すいません~」 初めての東京でカメオはオロオロと半泣きだった。 (あった…) 五分ほど歩いて駅前から少し外れた通りにアヤのメールにあった飲み屋を見つけ、カメオはホッと安堵の息を吐いた。 『カラミティ』という看板。 「……?」 カメオは看板を見て首をかしげた。 『カラミティ』の文字が引っくり返っている。 『災い転じて福となす』との、シャレなのだが『カラミティ』が『災い』という意味だと知らないカメオには分からなかった。 二階建ての古びた木造の建物。 右隣に洋品店。(年配女性御用達らしくハデハデな花柄やアニマル柄の服がディスプレイされている) 左隣は精肉店。(揚げ立てアツアツのトンカツ。メンチカツ。ハムカツが並んでいる) 「ニャ~」 赤い首輪の白い猫が傍若無人にテクテクとカメオの前を横切っていく。 「……」 駅近くのキャバクラやフィリピンパブのある飲み屋横丁とは離れた落ち着いた環境にカメオはまたホッと安堵した。 住居と一緒らしく二階の窓辺に洗濯物のタオルが強い風にパタパタと吹かれている。 昭和レトロな雰囲気だ。 二階の洗濯物から視線を前方に戻し、 「……!」 カメオはハッと眼を見開いた。 人混みに見え隠れしてサオリの後ろ姿が見える。
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