第2話 狐の嫁入り

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サオリは隣の洋品店のワゴンの安売りのセーターを広げて見る振りをしながら 『カラミティ』の店内を窺っている様子だ。 「……」 みるみるカメオの眼には怒りが溢れてくる。 カメオがサオリに一歩近づいた時、 ガチョリン。 飲み屋のドアが開いた。 (…蔵人さん…?) 蔵人がワインレッド色のチョッキのバーテンのような格好をして、電気看板を抱えて出てきた。 蝶ネクタイは着けずワイシャツを腕まくりしている。 「……っ」 サオリに気付き、蔵人は険しい眼をした。 「クロちゃん…」 蔵人の両手の包帯や火傷跡に視線を移して、 「…なんで?…なんで、そんな無茶するの?」 サオリは泣きそうな表情になった。 「…誰も好き好んで火事出した訳じゃねぇだろ」 電気看板を乱暴に地面に立て、足で蹴ってコンクリ・ブロックの重しを置くと、蔵人は店に入ろうとする。 「嘘っ。自分で火、点けたんでしょっ?」 「……っ!」 サオリの声にカメオは立ちすくむ。 「…なに、馬鹿なこと…」 蔵人が口元を歪める。 「だってクロちゃん。昔っから自暴自棄になると滅茶苦茶するじゃないっ」 「…なんで俺が自暴自棄にならなきゃなんねぇんだよ?お前に捨てられたからか?…思い上がんなよっ」 「……手…」 サオリが心配そうに蔵人の右手に触れようとする。 「触んなよっ。…っ」 思いっ切りサオリの手を振り払い、蔵人は痛そうに顔をしかめた。 「だっ、大丈夫?」 「……」 無視して蔵人は強風で飛んできた駅前の美容院のチラシを横目で見ると、面倒臭そうに箒を取って歩道を掃き始めた。 シャッ。シャッ。 「……?」 カメオの足元まで掃いて、初めてカメオに気が付く。 「……」 カメオは動揺した眼で蔵人の顔を見つめた。 「…カメっ?カメじゃんっ♪」 蔵人はサオリへの態度とは打って変わって歓迎ムードでカメオの首に抱きついた。 「よく、ここが分かったな?アヤだろ。あんの、おしゃべり女がよっ」 言いながらカメオの頭をグリグリと撫でる。 「……」 以前とまるで変わらない蔵人の態度にカメオは緊張が解け、ホッとした表情になる。
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