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「入れよ」
蔵人がカメオの肩に手を掛け、店の中へと促す。
店に入りながらカメオはサオリを振り返って見た。
「……」
サオリは嫉妬に燃えているような眼をしている。
「……」
カメオはサオリのその眼にややビビる。
「……」
蔵人がドアノブに手を掛け、サオリに振り返った。
「帰れよ」
素っ気なく横目で見て、
「お前の嘘にカメを巻き込むんじゃねぇよ…」
キツイ口調で言い捨ててドアを乱暴に閉める。
ガチョリンッ。
サオリは怒りと哀しみの混じり合ったような強い視線に涙を溜め、
「……」
ジイッとドアを睨んでいる。
サオリの頬にポツポツと雨が当たり始めた。
『カラミティ』は八席のL字のカウンター席に四人掛けのテーブル席が二つある、こぢんまりとした店だった。
やはり店内も昭和レトロな雰囲気だ。
「俺。ぜんぜん、飲めないっすから」
ビールを出した蔵人にカメオは手を振って拒んだ。
「ま…、ちょ…っとな」
蔵人はカウンター席の端に座ったカメオの前のグラスにビールをチビッと2センチくらい注ぐ。
「…クロちゃんは奥のことだけ手伝ってくれればいいのよぉ。まだ火事の怪我、治ってないんだからぁ」
派手な赤いドレスに厚化粧の五十代後半のママが言った。
ママはカメオの反対側の端の席の常連らしい中年男性客三人とゲラゲラ談笑している。
「ママが若いツバメ、飼い始めたって聞いたけど。この兄ちゃんかぁ~。ママも隅に置けないな~」
「しっかし、ママ、面食いだよな~」
常連客が冷やかした。
「やっだ。バレてたっ?わたしも、まだまだ、捨てたモンじゃないのよ~ん」
ママがおどけて蔵人の首に腕を廻し『ウッフ~ン』という色目をする。
「ようよう。見せつけんなよぉ」
ゲラゲラと笑う常連客。
蔵人もママの腰に手を廻しヘラヘラと笑っている。
「……」
カメオは軽蔑の眼でママと蔵人を睨み、
「ゴクゴク…」
腹立たしく思わずビールを飲み干した。
ドプドプ…。
自分で注いで、
「ゴクゴクゴク…」
さらに飲む。
ドタンッ。
「……!?」
大きな音に一同が振り返ると、
「クー…」
カメオが床の上に倒れていた。
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