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午後になると、蔵人が『カラミティ』の開店準備を始めた。
キュ。キュ。
モップを手に床の拭き掃除している。
(…へええ…。蔵人さんが掃除してる…)
カメオは物珍しそうに見つめた。
甲斐甲斐しく働く蔵人の姿を見るのは初めてで、それだけでもカメオには珍妙な光景だった。
「…東京に帰って久々に来たらよ。マスターがああだろ?ビックリしてよ~。俺。美容学校ん時ずっと、ここでバイトしててよ~」
言いながら蔵人は慣れた様子でカウンター席の椅子を並べ直した。
「俺。てっきり、蔵人さんとママがホントに…」
カメオがすまなそうな表情で言うと蔵人はさも心外そうに口元を歪め、
「てめっ。俺は、無制限に誰でも出入り自由ってか?…そこまで開放区じゃねぇって、…このっ」
乱暴に言って、カメオのことを蹴る真似をする。
「ヒャヒャッ」
蔵人の足を避けながらカメオは蔵人に再会して始めて笑顔になった。
「……」
蔵人はモップの柄に寄り掛かって、感無量の眼差しでカメオを見た。
カメオが自分に逢いに来てくれたことが嬉しかったのだ。
ぶっきらぼうな態度よりも本心では、もっと『強烈』に『猛烈』に『激烈』に嬉しかったのだ。
「カメ。せっかく東京来たんだから二、三日は遊んでけよ」
蔵人は胸中では『懇願』しつつも口調は努めて、さりげなく言った。
「うん。あっ、ヤバイっ。家にメール…」
慌ててカメオはケータイを取り出す。
「初・無断外泊ってか?お坊ちゃんは」
蔵人はカメオの顔を覗き込んでニヤニヤする。
「あ。アヤさんにも知らせとこ」
蔵人の顔を煩そうによけてカメオはメールを打ち始めた。
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