花に酔う獣【10】 side獣

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「そういえば遅いわね。たぶんファイル一冊くらいの量なんだけど……どこ行くの?資料室はこっちじゃ」 父の法律事務所はけっこう大きな規模のもの。 相談の内容ごとにフロアが分かれ、所長室のあるこのフロアには事務室の他、従業員の更衣室に休憩用の部屋、そして資料室がある。 だから限られたクライアントか、従業員くらいしか出入りしない。 中でも所長室から一番遠い、今は物置となっているあの旧資料室を利用するものは、ほとんどいない。 人の出入りが少ないから、文香と情事に及ぶのに使っていた。普段みんなが使う資料室は、所長室のすぐ近くなのだ。 その旧資料室を真っすぐ目指す。 ガタンッ。 目指す部屋から物音と悲鳴のような声が聴こえ、とっさに走り出した。 「いやぁぁっ!ゆーくんっ!ゆーくんっ」 文香の泣き叫ぶ声だった。
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