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金と欲の為に俺の身体の醜さから目を背け、嫌悪感と戦いながら性交渉をする女なら、今までもいた。
けれど傷を負った俺のことを心配したやつなど、誰一人としていなかったのだ。
「こんなにたくさん傷があって、いっぱい痛かったね。偉かったね」
抱いてたはずの女に抱きしめられ、あやすように背を撫でられた。
「……由香。お前、俺に飼われないか」
手放したくないと思う感情の名を、その時の俺はまだ知らなかった。
愛されたこともなければ誰かを、何かを大切に思ったことなどなかった。
俺自身を心配する存在など皆無だったし、コマとしての役目以外に必要とされたこともなかった。
愛というものを知るのは、もう少し先になる。
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