嫉妬 ②

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圭太は顔を横に背け、流れる車窓を眺める振りをしていた。その目には何も映っていない。頭の中に浮かぶ映像に気を取られていた。 『実は、先日ホテルで麻生さんに口説かれたんですよ。もちろん、冗談だと分かっているんですけどね・・・ガラにもなくドキドキしてしまいました。私はタチなんですけど、耳元で囁かれて思わず堕ちそうになりましたよ』 あの人、無駄にいい声してますよね。そう言って苦笑いを浮かべていた。 黙っていれば分からないのに、何故村瀬がそんなことをわざわざ圭太に耳打ちするのか分からなかった。いや、何となく想像は付いた。ーー多分、嫌がらせだ。理由は色々あるのだろうが、いい迷惑だ。 仲違いさせようとかっていう悪質さまでは感じなかったが、腹いせに引っ掻き回してやろうって、くらいの気持ちはあったんじゃないかと、圭太は思っている。 確かに腹は立った。思わぬ言葉も訊けたが・・・圭太はともすれば緩みそうになる口元を引き締めた。 「小原」 運転席に座る昴が、呆れたように名を呼んだ。それに対し圭太は不機嫌な声で答える。 「何だよ」 「何だよじゃねぇよ。お前、怒るかニヤけるかどっちかにしろ。気味が悪いぞ」 圭太は慌てたように口元を手で隠した。 「・・・う、うるせぇ、俺は怒ってんだよ」 「じゃあ、そのニヤニヤ笑いを今直ぐに止めろ」 「そんなことしてない」 我慢してるんだ。顔に出てない筈だ。 「・・・嬉しいなら嬉しいで素直に喜べばいいだろ」 溜め息と共に苦笑を浮かべる昴に、小さくうるせぇと返した。
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