嫉妬 ②

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夜9時。住宅地の奥にある古びたビルには静寂が広がっていた。テレビも着けず、一人ビールをちびちびと飲みながら、圭太は時計に目をやった。ハァーと溢れる溜め息が、その心境を物語る。 「何やってんだ、あのバカ」 独りごちる声がシンと室内に消えていった。戻って来ると思った男は、未だ帰って来ない。圭太は帰って来てからシャワーを浴びた後、まんじりともせずに、男の帰りを待っていたのだ。 その時、廊下をダダダダダッと勢いよく走る音が響いた。耳を澄ませると、その音は部屋の前で止まるのが分かった。 「やっとかよ」 不満気に呟く圭太の耳に、次いで、ドンドンドンと激しくドアを叩く音が聞こえてきた。 「圭太!圭太!居るんだろ?開けてくれ」 大声で呼ぶ男に圭太は舌打ちをすると、ソファから立ち上がる。 「鍵開けて入ってくればいいじゃねぇか」 ぶつぶつと呟きながら、圭太はドアまで歩き扉を開いた。そこには、息を切らし血走った目をした修也が立っている。開口一番、圭太は「遅い!」と修也を責めた。 「圭太」 修也は一瞬泣きそうに顔を歪め、中に入るなり腕を伸ばして来た。その腕を躱し、圭太は眉尻を吊り上げた。
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