第5章

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9月の第2週の水曜日。隣町にある駅前のコーヒーショップで、圭太は一人コーヒーを飲んでいた。その視線は通りを歩く人並みを眺めている。物憂げな表情で妙なフェロモンを垂れ流し、周囲の視線を集めていたが、 思考の波に囚われている圭太には気付かない。 明るいブラウンに染め上げた髪をかき上げ、うぅーと心の中で唸り声を上げた。 何で今更電話なんてしてくるんだよ。昨日、突然掛かって来た電話に呼び出された圭太は、溜め息を一つ零した。 『久しぶり』 そう言って電話の向こうで笑っていたのは懐かしいというには、まだまだ記憶も生々しい元嫁、沙織だった。 『元気にしてた?』 圭太は戸惑いながらも頷いた。 「・・・あ、ああ、沙織は・・・元気そうだな」 『そう聞こえる?それがそうでもないんだけどねー』 ケラケラと笑う声からは憂いは感じ取れず、圭太は首を傾げた。 「なんかあったのか?」 『うん、それなんだけどね』 ほんの少し口籠もった。 「・・・沙織?」 怪訝な声を出す圭太に『明日、会って』と沙織が唐突に告げる。 「・・・はっ?」 『明日、昼間時間作って頂戴って言ってんの』 「何で」 『話があるから。電話じゃ出来ない話』 「急過ぎる。仕事があるから無理だ」 『・・・そう』 「そうだ」 『じゃあ・・・明日の一時に○駅の近くにあるコーヒーショップで待ち合わせしましょう』 何がじゃあだ。全然分かってないじゃないか。 「おい、無理だって」 『会うの楽しみにしてるから。じゃあね』 「ちょ、おい・・・・・・何なんだよ」 一方的に約束を取り付けた沙織は、これまた一方的に話は終わりとばかりに電話を切っていた。圭太は呆然とスマホを睨み付けた。
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