第5章

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「圭太が悪いのなんて分かってるわよ」 眦を上げて、遠慮なく糾弾する沙織に苦笑する。ーーふと、沙織の顔が曇った。でもねと、痛みを堪えるような表情を浮かべながら圭太を見た。 「・・・でも、風太を置いて出て行く言い訳になんてならない。風太を連れて行くって選択肢もあったのに、私は泣いて縋るあの子を置いて逃げ出したのよ。育児放棄したの。あの子はちっとも悪くないのに・・・母親失格よね」 「それだって、俺のせいだろ。俺がお前をそこまで追い詰めたんだ」 初めての育児で不安もあったろう。心細かったろう。頼るべき相手の旦那は浮気ばかりを繰り返し、家庭を顧みない。家に帰って来ても、疲れたからと言って話も聞いてやらなかった。何度も歩み寄ろうとする沙織を突き放し、放ったらかしにしたのは他でもない圭太だ。 「・・・あなたって、優しいのかそうでないのか本当に分からない人ね」 揶揄する響きに圭太は悪かったと頭を下げた。 「・・・うん、まぁ、いいのよ。恨み言を言う為に呼び出した訳じゃないから」 沙織はチラリと時計に目をやると、ここからが本題とばかりに居住まいを正す。
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