第5章

6/178
前へ
/599ページ
次へ
「単刀直入に聞くんだけど」 ほんの少し躊躇を見せる沙織に首を傾げた。どちらかと言えば、言いたいことは、ハッキリと口にする女だ。その沙織が逡巡するかのように視線を彷徨わせた。 「どうぞ」 圭太はコーヒーに口を付けながら先を促した。どう言っても同じよね。沙織が小さく呟き、コホンと咳払いした。 「・・・圭太、男と付き合ってるって本当?」 プハーと圭太の口からコーヒーが噴き出された。目を丸くしながら、沙織を凝視する。 「汚いわね・・・何してんのよ」 店のスタッフを呼び寄せおしぼりを二枚貰うと一枚を圭太に渡し、口元を拭くようにと促す。もう一枚で、飛び散ったコーヒーを拭いた。 ゲホゲホと咽せ返りながらおしぼりを受け取り、口元を拭った。頭の中では『何で知ってる?』そんな疑問が過る。でも、確信はない筈だ。だから沙織も訊ねる口調で聞いて来たのだろう。だったら今は『何で知ってる』よりもしなければいけない事がある筈だ。 だから、否定しなければと思った。何言ってんだって笑い飛ばせばいい。なのに、圭太には出来なかった。否定すれば、それは自分の修也に対する気持ちまで否定するような気がして。 「さ、沙織?あ、あのな・・・えと、そのな」 何を言っていいのか最早分からなくなった圭太がしどろもどろになる様子を、沙織はテーブルを拭きながら見ていた。
/599ページ

最初のコメントを投稿しよう!

419人が本棚に入れています
本棚に追加