第5章

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「ああ、うん。分かった。もう、いいや」 半笑いを浮かべ沙織が遮る。 「えっ?」 「本当だったんだね」 「いや」 「圭太は嘘付くのも誤魔化すのも下手だから」 その言葉に黙り込んだ。 「始め聞いた時は信じられなかったんだけどね・・・だって、女好きで浮気ばっか繰り返してた人がって思うじゃない」 「誰に聞いた?」 声が掠れた。 「大学の仲間内でかなり広まってる」 ・・・大学?圭太の脳裏に『林田響子』の顔が思い浮かんだ。圭太に執着し、修也とのことでかなりショックを受けていた。(まぁ、あの時はまだ付き合ってはいなかったが)あいつが噂を撒いたのか?圭太は眉間にシワを寄せた。 「丁度、話したいこともあったしね。確かめてみようと思ったんだ。半信半疑・・・と言うより殆ど信じてなかったんだけど、ビックリした」 圭太は返事が出来ず、ただ見返した。沙織はまたチラリと腕時計に目を走らせると「やだ、もうこんな時間だし」とわざとらしく呟いた。 「ちょっと話が合ったんだけど、もう昼休憩が終わっちゃう。また連絡するよ」 「えっ?」 戸惑いを浮かべる圭太に、ニコリと笑い沙織はまたねと、帰って行った。 呼び止める暇もなかった。圭太は残された二つのトレイとカップ、茶色く変色したおしほりを見つめ、小さく溜め息を吐き出した。
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