第5章

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『ちょっと、兄貴、聞いてるの?』 過去の出来事を思い出していた圭太は智花の声で我に返り、目をパチクリとさせた。 「・・・えと?」 『えとじゃないわよ。一回、風太連れてこっち顔を出せって言ってんの』 「なんで」 『なんでって・・・聞かれる意味が分からない。私にとっても可愛い甥っ子だし、両親にとっても目に入れても痛くないくらい可愛い孫なのよ?それをいつまでも根に持って尋ねて来ないとかあり得なくない?』 根に持ってって・・・2度と顔を見たくないって言ったのはそっちだろうが。圭太は憮然と押し黙った。 『兄貴?聞いてるの?』 「・・・聞いてる」 『今週の土曜日にでも泊まりがけに来てよ』 「はっ?無理に決まってんだろ」 『なんでよ』 その言葉に、圭太は一瞬躊躇する。 「・・・仕事だ、仕事」 『本当に?』 疑う声音に「本当だ」圭太は頷く。正確には土曜日が仕事で、日曜日は休みだったが。喧嘩別れのような体裁で、実家から遠のいてから何年か経つ。蟠りがある訳じゃないが、圭太の中でかなり敷居が高い。両親が孫に会いたいって気持ちも分かる。分かるが、しかしだ。 それに、このタイミングでの電話に、圭太は少しだけ警戒していた。
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