第5章

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「ほんと?」 「ああ・・・てか、話が逸れたな」 圭太は、あのなと風太を見る。 「ままハハじゃない風太の本当の母ちゃんが風太に会いたがってんだ」 「ホントの、かあちゃん」 「ああ・・・風太は母ちゃんに会いたいか?それとも、会いたくないか?」 圭太の問いに風太は俯くと「・・・わかんない」とボソリと呟いた。 「母ちゃんのこと、あんまり覚えてないんだよな?」 「・・・・・・うん」 明らかにテンションの下がった風太に、圭太は眉尻を下げた。覚えているのかもしれないと、思った。 普段はそんなことをおくびにも出さない。明るく活発で笑顔を絶やさない。その笑顔の陰で、ずっとそのことが消化し切れないまま、燻り続けていたのかもしれない。 まだ2年半だ。謂わば母親に捨てられたのだ。小さかったとは言え、かなりな衝撃だっただろう。忘れてる筈がないよな、傷付いた心が簡単に癒える筈がないじゃないかと、圭太は不用意に母親の話をした自分を責めた。そうして、唇を噛み締める風太を強く抱き締める。 「無理に会えとは言わない。会いたくないならそれでもいい。誰もそのことで風太を責めはしない。ただ、ちょっとだけ母ちゃんの肩を持たせて貰うなら、母ちゃんが出て行ったのは全部父ちゃんが悪いんだ。あいつを追い詰めたのは俺だ。だから、出来るなら母ちゃんを責めないでやってくれ」 自分勝手な言い草だよなと、自己嫌悪に陥る。沙織も言っていた。だからといって風太を置いて出て行く理由にはならないと。 ごめんなと、圭太が呟くと風太は肩口に額を押し付けたままふるふると頭を振った。押し付けられた肩口がジワジワと濡れて行く。嗚咽を押し殺し、圭太にしがみ付く。小さな体を震わせている風太を、圭太はただ抱き締めてやることしか出来なかった。
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