第5章

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圭太は事務所に戻って来ると、先程交わした風太とのやり取りを修也に話した。 「浅はかだったよ。まだ小さかったし覚えてないだろうと思っていた」 圭太は自己嫌悪に苛まれていた。無邪気に笑う風太を思い浮かべ、その笑顔が酷く切なくて遣り切れなくなる。小さかったからといって侮っていたつもりはなかったが、母親に置いて行かれるという事が、どれだけ子供の心を傷付けるかまで考えが思い至らなかった。現に風太は母親を求めて、暫く泣きぐずっていたのに。 圭太は自嘲し、頭を抱えた。 「やっぱり俺は父親失格だな」 「お前は立派に父親やってんぞ?」 修也は圭太の肩を抱き寄せ、頭を優しく撫でる。 「だから、風太は良い子に育ってるだろ?」 「あいつは元々良い子だ」 だから俺は関係ないと、圭太が呟けば修也が笑う。 「何がおかしい」 「お前の親バカぶりがな」 圭太がムスリと黙り込む。 「圭太にとっての一番は風太だって、お前、前に言ってただろ?」 まだ付き合う前、確かに圭太はそんなことを修也に言った。 「圭太が風太を好きだってことも、大切に思ってるってことも、お前からはダダ漏れだ。俺も周りもみんな知ってる。そして、風太もちゃんと分かってる。母親の分まで寄り添って、圭太はちゃんと風太を見てやっているし、愛してやってる。あいつには、それだけで充分だと思うぞ?」 でもと、言いかける圭太を、修也が遮った。
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