第5章

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「子供にとって一番大事なのは親の愛情だ。母親に置いて行かれた寂しさや、傷付いた心を癒すことは、父親である圭太にも難しいんじゃないかと思うんだ」 顔を上げれば、真摯な目をした修也が労わるように微笑んだ。 「誰がどうすれば癒えるかは分からない。時間が解決してくれる問題で済むのかすら定かじゃない。だから、圭太が焦って何とかしてやらなきゃって、気負う必要はない。ただ、どこにも行かない、何があっても傍に居て愛してやるからと、態度と言葉で示していてやるだけでいいんじゃないかな」 あいつもお前が大好きなんだからなと、修也が笑った。 修也の言葉が心に染み込んで来た。風太と二人の生活になって2年半。その間、圭太は周りの助けを借りながら、必死になって風太と生きて来た。 父親として、ダメな所ばかり見せてしまっていたと思う。 女に振られ、酔っ払って絡んだことも何度もあった。 夜中に布団に潜り込んで、その温もりに、寝顔に、何度慰められたろう。 だらしなくて頼りない父親だった。それでもいいんだと修也に肯定して貰えた気がして、ささくれ立った気持ちが凪いで来るのが分かった。 「お前は立派に父親をしてるよ」 甘やかな声が頭上から降って来た。さっきは受け入れられなかった言葉を、今度は素直に受け止めた。顔を上げると、優しく掠めるようなキスをされた。 「だから、風太は大丈夫だ。心配するな」 圭太は、その言葉に、感謝の気持ちを込めて頷いた。
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