第5章

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◆ 「どうぞ」 圭太はテーブルの上にカップを置くと、緊張して顔が強張っている女性に、ニコリと微笑んだ。微笑まれた女性は、頬を赤く染め俯いた。 年の頃は30前半だろうか。少し疲れた顔をしてはいるが、化粧をバッチリしてそれなりの格好をすれば、華やかな印象を受ける美人だよなと、圭太はそんな風に思いながら女性を見ていた。 コホンと、斜め横から咳払いが聞こえて来た。顔を向けると、鋭く睨み付けてくる修也と目が合った。圭太は、嫉妬してんじゃねぇぞ?だったらお前が愛想を振り撒けよとばかりに睨み付けてやる。暫く睨み合い、修也が苦虫を噛み潰したような顔をして目を逸らした。 よし!と、圭太は心の中でガッツポーズを取る。 「・・・圭太、座れ」 促されるまま隣に座ると、丁度書き終えたのか女性がファイルを修也に手渡した。 チラリと内容を確認する。 (『浮気』ねぇ。女って、どうやって旦那の浮気を嗅ぎ付けんだろうな) 沙織も確か、調査会社に依頼して浮気の証拠をこれでもかと、突きつけて来たんだよな。圭太はほんの少し遠い目をして宙を見つめた。 過去の映像が次々と浮かび上がる。怒ると言うより呆れた様子の沙織の顔。テーブルに置かれた数々の写真。調査報告書とA4サイズの茶封筒。そこまで思い浮かべ、ふと、圭太は記憶に引っかかりを覚えた。あれ?と首を傾げる。 何の変哲もない茶封筒に、調査会社の社名が印刷されていた。・・・何て書かれてあった? 「圭太?」 記憶を辿る圭太の腕が揺すられた。圭太は思考を中断され、瞬きを繰り返し揺すった主を見た。
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