第5章

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「父ちゃん、本当に作るのか?よしくんとこ行かないのか?」 恐る恐る訊ねてくる風太に、圭太は包丁を握ったままニヤリと笑った。 「おう、男に二言はない」 「父ちゃん、こわいから、包丁ふりまわすのやめろよ?」 「任せろ」 鼻歌交じりに野菜をザクザクと切って行く圭太の手元を、椅子の上に乗った風太が不安そうに眺めている。 「父ちゃん、手切りそう」 半泣きに近い表情を浮かべる風太に「大丈夫だ」と一言告げる。5歳の息子に心底心配される親は俺くらいだよなと思いながら、圭太は切った野菜をボールに移した。 「と、父ちゃん、包丁おいてからしなきゃ、ダメだ」 途端に悲鳴に近い声で諌められるが「大丈夫大丈夫」と圭太は軽く受け流す。 「・・・父ちゃん」 「美味いかどうかは分からねぇが、ちゃんと食べられるのを作ってやるから、テレビでも観て待ってろ」 「おれも手伝う」 「おっ?そうかそうか、じゃあ父ちゃん、これから肉と野菜炒めるから、風太はそこにあるジャガイモの皮剥いてくれるか?」 圭太はレンジで蒸したジャガイモを指差した。 「熱いかもしれないから、気を付けてな」 「うん、分かった」 風太はいそいそと椅子から下りると、テーブルの上に置いてあるジャガイモの前に座った。そっと手に取り、熱さを確かめている。 「父ちゃん、大丈夫みたいだ」 「そうか、じゃあ頼んだぞ?」 そう言うと、圭太は熱したフライパンに肉を放り込んだ。
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