第5章

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「一応電話で訊いてみるが、幸也さんがダメだって言ったら諦めるんだぞ?ゴネて拗ねるなよ?」 念押しする圭太に風太が頷く。それを確認してから、圭太は幸也の番号を呼び出した。 コール音が鳴り響く。7回目辺りで切ろうと指先を動かしたところで『もしもし』と幸也の声が聞こえて来た。 「夜分遅くに申し訳ありません、小原です」 『大丈夫だよ』 ふわりと笑う気配を感じた。 『一人寂しく酒を飲んでたんだ。話し相手が出来て嬉しいよ』 「幸也さんなら選り取り見取りでしょうに」 柔らかな物腰の中にあって、一本筋の通った強さを併せ持つ幸也の姿を思い浮かべる。あれだけの美丈夫、女性は放って置かないだろう。 『彼女達の華やかな雰囲気の中で飲む酒も良いけど、今は静かに飲んでいたくてね』 「・・・すみません、邪魔しちゃいましたね」 やっぱりこんな時間から掛けるべきじゃなかったと、圭太は恐縮した。 『邪魔だなんて、とんでもない。電話を貰えて嬉しいですよ。後で、如月に自慢してやります』 柔らかで甘ったるい声で囁かれて、圭太の顔が赤くなった。何と返すのが正解かと頭を抱え込む圭太を見透かしたような笑い声が、電話越しに聞こえて「揶揄わないで下さい」と懇願した。
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